地域保健情報学Community Health Communication

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コミュニティヘルスケアにおける医療通訳者の役割

 臨床の場における医療者―患者間にある言語障壁は、誤診、診断の遅延など医療リスクを高める結果につながりやすいことは周知となっています1)。医療安全を保障するうえで、現地の言葉に流暢でない外国人に対しては医療通訳をつけることを、移民が多いアメリカやオーストラリア、欧州の国々などでは法で定められていますが、日本では医療通訳の利用については未だ制度として確立されていません。このため日本語に流暢でない外国人が診療を受けるときは、日本語が堪能な家族や友人による通訳(みなし通訳者)を利用するのが一般となっています。近年は自治体や医療機関によって医療通訳の派遣を補助する仕組みを設けていることもありますが、数が限られていることや医療通訳者への支払いも患者が一部負担をする必要性から、毎回の通訳利用は患者にとって現実的ではありません。医療機関での通訳利用の整備が不十分な中、地域の保健ケアの場ではより言語障壁の課題について検討はされてきていません。地域保健や在宅ケアの場合は、臨床の場よりも生命や健康リスクを患者、医療者ともに感じにくいことが背景となっているためか、言語障壁に伴うケアの質の保障について認識されていないと考えられます。また地域で働く医療者が通訳をどのように活用していくのか、その利用方法や連携のとり方について研修や教育を受けていないことが2,3)、通訳の過少利用、過少評価につながっていると考えられます。介護保険サービスの利用時の専門通訳士(コミュニケーション・サポーター)を対象に、高齢在留外国人の介護サービス利用における言語通訳士の役割を把握した質的研究でも、高齢者や家族が通訳の必要性を感じていないことが示唆されました4)。Hsiehは医療通訳者は単に言語を通訳する役割だけでなく、医療消費者にとって複雑な医療システムのナビゲーターであり、ヘルスリテラシーを高める支援者であり、自立を促しエンパワメントに寄与する役割を持っていると述べています5)。適切な医療保健、介護サービスの選択と利用、医療ケアに対する意志決定、在宅ケアの質の保障をするうえで、地域保健での医療通訳者の役割は臨床の場と同様の重要性を持っています。

参考・引用文献

  1. Divi C, Koss RG, Schmaltz SP, et al. Language proficiency and adverse events in US hospitals: a pilot study. International Journal of Quality Health Care, 19:60-67, 2007.
  2. Gerrish K, Chau R, Sobowale A, Borks E. Bridging the language barrier: the use of interpreters in primary care nursing. Health and Social Care in the Community, 12(5): 407-413, 2004.
  3. Kale E, Syed HR. Language barriers and the use of interpreters in the public health services: A questionnaire-based survey. Patient Education and Counseling, 81:187-191, 2010.
  4. 相原洋子.言語的マイノリティ高齢者の介護ケアにおけるコミュニケーションの課題:コミュニケーション・サポーター(言語通訳者)の活動実態からの考察.日本ヘルスコミュニケーション学会誌,10:25-30, 2019.
  5. Hsieh E. Health literacy and patient empowerment: the role of medical interpreters in bilingual health communication. In Dutta MJ, Kreps GL (Ed.): Reducing health disparities. Peter Lang Publishing, NY, 2013.

高齢在留外国人のヘルスリテラシー支援における通訳者の役割実態

 兵庫県神戸市では日本語が流暢でない外国人が、介護認定調査やケアプラン作成時に言語通訳を依頼するコミュニケーション・サポーター事業を設けています。2020年度現在、利用できる言語は韓国語、中国語、ベトナム語、英語、スペイン語、ポルトガル語となっており、外国人支援団体の協力を得て実施されています(詳細はhttps://www.city.kobe.lg.jp/a46210/business/annaitsuchi/kaigoservice/kiteiyoushiki/supportjigyo.html 参照)。コミュニティヘルスケアにおける医療通訳の役割で述べているように、通訳者は外国人のヘルスリテラシー支援、エンパワメントする役割が期待されていますが、日本のコミュニティヘルスケアの場で通訳者の役割と役割遂行上の課題について検討された報告はありません。そこで地域ケアにおける通訳者の役割を探索的に把握することを目的に参与観察と専門職者のインタビューを実施しました。この調査結果から、日本の通訳者の役割として①意思決定の代弁者、②情報共有を促す役割、③文化的理解の促進を担う役割、④客観的コミュニケーター、⑤ケアの質保障があることが把握されました。詳細な研究報告については、科研1年目報告書ここをクリックしてください。PDFダウンロード)を参照してください。

ヘルスコミュニケーション促進における通訳役割/専門通訳者の介入

コミュニティヘルスケアにおける通訳者の活用に関する意識

 日本では医療の場における専門通訳者の制度もないうえ、医療者自身も利用について馴染みがないため、通訳者を利用するうえで様々な困難が生じると考えます。また医療ではないコミュニティヘルスケアの場では、外国人のケアの関わっている人も限定されることから、通訳者の活用について認識する人も少ないのではないかと考えられます。そこで大阪府と兵庫県の地域包括支援センター職員を対象に、外国人対応の実態把握と、外国人のコミュニケーションにおける通訳者活用の意識調査を行いました。調査により地域包括支援センター職員の8割が専門通訳者の活用についてその必要性を認識していいましたが、実際に活用するにあたり緊急性や窓口、費用負担に関するシステム上の課題が把握されました。詳細な研究結果については、老年社会科学Vol43を参照してください(日本老年社会科学会HP:http://www.rounenshakai.org/)。

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